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オーストラリア視察滞在 2019年3月26日

更新日:2023年2月20日


 

3/26(火)-3/31(日)の期間でオーストラリアに視察滞在して参りましたので報告いたします。 それぞれの場所で日本とは大きく異なる“個”の振る舞いを実感することができ、とても充実した滞在でした。以下、長くなりますが、 3つの “個” の視点で整理してみようと思います。


①コミュニティ移転を行う前提としての“個”

移転エリア


滞在の一番の目的は、Lockyer Valley・Grantham地区でのコミュニティ移転事業を実際に見ることでした。この地区では、2011年の大洪水災害に伴うVoluntary Land-Swap(任意型土地交換プログラム)が行われています。このプログラムは、Lockyer Valley Regionが、住宅が全壊した被災者に対し、もともと所有していた土地と同面積の区画を提供する事業です。移転するかは被災者の意向次第で選択可能です。また、移転地は行政が被災前から開発を見込んでいたエリアで、行政はこの地区に集団で移転することが復興において効果的だと判断した経緯があります。

      周辺の既存エリア             被害を受けたエリア


現地を体感してみたり、住民や行政職員の方のお話を伺ったりすると、プログラムの前提となっている“個” の考え方が際立って感じられました。具体的には、復興における土地への認識が私的所有を通じた資産運用的な考えに基づいていて、住民の方からは「思ったよりも土地価格が向上しなかった」といった声を聞き、日本では到底聞けない発言でとても驚きました。そして、土地を売却して得られる資金のために地区を離れる人も一定数いるようで、実際に“For Sale”が掲げられた土地や住宅を確認することもできました。

復興には主体性が重要だというのはよく言われることです。上記のような土地交換プログラムを活用した住まいの移動は、いわゆる西洋の“自立した個”を尊重する個人主義的な考えが色濃く反映されているように思われ、そういった意味では個人の主体性が発揮されたといえそうです。

しかし、それによって生じている問題もあります。例えば、周辺の既存エリアからは新しく出来た移転地とのギャップに対する不満が生じていたり、住宅被害が半壊だった世帯はプログラムの対象外となり、資金不足で現地再建を余儀なくされ結果的に地区の断絶を生んでいたりするそうです。つまり、上記に示した個人の主体性は、移転地の区画と所有していた土地との差異によって成立していたのですが、一方ではそれ以外の場所での不満や断絶といった出来事にもつながっているのです。

復興では、個人の主体性が発揮されれば良いわけではなく、“自助・共助・公助”のような異なる主体の連携が必要でしょう。しかし、上に示したように事態は複雑であり、その際の論点として、移転という場所の変容をどのように捉えるかが重要だと感じます。復興において発揮されるべき主体性とはどの主体の何か、そしてその際、場所が果たすべき役割や意義について改めて考えさせられました。



②都市における行為の主体としての“個”

川岸に座りスケッチをする小学生(Brisbane・Clem Jones Promenade)


滞在した都市(Brisbane・Sydney)では、パブリックスペースの中で様々な「居方」を振る舞う人々がとても印象的でした。良いシーンだと感じる場所がそこかしこにあるのが日本のパブリックスペースとは対照的で、まちあるきはいつも新鮮な驚きで溢れていました。こうした場所のつくられ方は、日本と西洋の公私の考えや文化の違いによるところが大きいと思います。しかし、もしそうだとすれば、実は日本的な「居方」を自分は見落としているのではないかとも感じられ、日本のパブリックスペースを改めて見直したいと思いました。


 店舗と歩道の境界に設けられたソファ     外にも開かれたカウンターキッチン

  (Brisbane・Edward Street)        Sydney・Central Park Mall)



      ワイルドな視点場           回廊に囲まれた芝生の広場 

Brisbane・Kangaroo Point Cliffs Park)  Brisbane・University of Queensland)

③イメージを実現する建築家としての“個”

シドニーオペラハウスが立地し、多くの人でにぎわうBennelong Point


シドニーでは、言わずと知れたオペラハウスにも立ち寄りました。ここでは、一人の建築家によって生み出されたイメージが、多くの人々の知恵と努力によって現実のものとなっている姿を見ることができました。実際に体感してみると、細かな収まりや素材の選択が、この建築が持つ軽やかで荘厳なイメージを両立させていることに気付きます。

また、そうして出来上がった建築が多くの人々に今なお愛され、時代を越えて人々に共有されている様子を目の当たりにすることは、建築の原点に立ち返るようでとても幸せな体験でした。


   リズミカルなコンクリートリブ       屋根構造とホールの間のホワイエ


滞在の充実ぶりが多少なり伝わったと思います。

最後に、現地をご案内いただいた先生方には大変お世話になりました。深く感謝申し上げます。

また、個人的には英語のトレーニングの必要性を痛感しました。精進します。

D4 坪内


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